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人だけいい学校に行き、一流企業に就職をして立身出世をする。その人を強い人と世間は申します。そこから脱落する人は弱い人なのです。人間の強さとは一体何なのか、人間の弱さとは一体何なのか。
神奈川県に神奈川中学という名門校がありました。いまの希望ガ丘高校という進学校です。70年前、この神中に一人の障害児が入学を志願しました。公立中学に障害児が入った前例がありません。しかし、どうしても入りたい。熱願しました。学校で教員会議にかけました。体操、とくに軍事教練の教師が真っ先に反対しました。そんな子が入ったら困る。足手まといになる。だれも賛成者がいないというときに、一人の若い教師がスクッと立ち上がって「その子を受験させよう。もし、その子が合格をしたら私が担任になって責任を持ちます」と言い切ったのです。ほかの先生たちも「あなたがそこまで言うのだったら、やらせてみるか」ということになって、その生徒が受験をしました。トップで入りました。その生徒は5年間トップを続けたのであります。卒業しても官立旧制高校はやはり入れてくれません。やむを得ず私立大学に進みました。私立大学を卒業しましたが、職業は限られておりました。弁護士を選択しました。この障害児がのちに横浜市長になり、社会党の委員長になった飛鳥田一雄氏です。非常に優れた人物でした。
この生徒に受験をさせようと言って、自分で5年間クラスを担当した若い教師が長野正義という人で、横須賀市長になり、今日95歳で老人ホームで余生を養っておられます。戦前にこういう若い勇気のある教師がおりました。専門職につくということは、だれが反対しようと一人の命、一人の生活を守るために最後まで自分自身を賭けるということで、それが専門職ということでありましょう。
こうした専門職に私どもが一体どうやってこれから自分の身を

 

 

 

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